11月19日、『ダイアローグインザダーク』に参加してきた。ダイアローグインザダークとは、グループを組んで完全に光を遮断した空間の部屋の中へ、暗闇のエキスパートである視覚障害者の方と一緒に入り、様々なシーンを体験するプログラムだ。
木のぬくもりでいっぱいのエントランスは雰囲気のいいカフェのように少し照明が暗く落ち着いた雰囲気で、思わず声をひそめて話してしまうような場所だ。この日の全体の装飾は、秋の運動会をイメージしており、「今日はみなさん、ハチマキをして参加してもらいたいと思います!」と受付の人に促されとてもわくわくした気持ちになった。高校生の体育の授業ぶりのハチマキだった。
≫赤と白が選べたので、わたしは小学校、中学校のときに憧れていた赤組で
ダイアローグインザダークの競技に臨みました。
競技は玉転し、玉入れ、守ってあげたくなる手ナンバーワンはだれだ?握手選手権、二人三脚をした。本当に何も見えない、歩くことさえ怖いと思うような場所で動くことは、軽い動きでもはじめのうちは足がすくんで動けなかった。ひとつひとつ競技していくにつれて暗闇に身体が慣れてき、感覚がわかるようになってきて、音の方向、人の気配、歩幅の感覚がわかるようになってくることを感じた。普段の生活の動作で普通のことを意識するようになっていくことを体感した。何も目で見ることができていないのに、不思議と人がいるのがわかる、しかもだんだん誰がいるのかも感覚をつかんでわかるようになってゆく。
運動会の競技を一通り終え、紅茶とコーヒーが混ざったような香りがするジャズが流れるカフェに入っていった。そこでは飲みのもとかごに入ったお菓子をいただくことになった。お金を払うとき、硬貨を指で判別して出すことが難しかった。わたしは10円玉、100円玉、500円玉を持っていて、どれがどれなのか感覚で意外とわかるものなのだが、それをどこに渡すのかが難しかった。
お菓子は小包装になっているものが4つ。手で触ってだいたい想像がつく。おせんべい、グミ、キャラメル、チョコレートだ。印象的だったお菓子のひとつめは、おせんべいを食べるときのことだ。
普段は、おせんべいの位置・見た目を確認(しょうゆ味だな)→(意識することなく袋を開けて)食べる
この時は、手で食べものを探す→おせんべいをいつもの感覚で割る→袋をいつもの感覚で開ける→袋から取り出す(ちょっと大きすぎたのでもうちょっと割る。お、これはしょうゆ味なのか)→食べる
と、口に入るまでの過程の意識が異り、普段意識していないことを自然と考えていることに気がついた。
面白い体験だったもうひとつは、ぶどう味のグミだ。袋の上から触ればすぐにグミだとわかった。後から種明かしで表面にぶどうの粒をイメージした凹凸があるタイプのグミだとわかったのだが、何も見えない暗闇の中でその凹凸は何かの顔のように思った。「見て見てー!グミに顔みたいなのある!」ととっさに言ったのだが、みんな物が見える状況にはない。見えないからこの興奮と情景は伝わらないか、と少しかなしく思った。そのあとに続けて「たしかに何か柄みたいなのあるね」と左に座っていた参加者のひとりであるりょうさんが言っていた。まるでわたしの持っていたグミを見て話しているような感覚をえたし、きっと見ていたのかなとも思う。
わたしは暖かいほうじ茶を注文した。暖かい飲みものはこぼしたら怖いな、と思ったが挑戦してみることにした。手早く出してくれたので、早速ほうじ茶をいただいてコースターの上に置いた。、、見えていないのに”いつもの流れ”でコースターの上に置いたのだ。疑問に思った。暗闇で手元も机も見えていないのに、コースターの上に湯のみをきちんと置くことが何回もできるのだ。「関節は動きを記憶することができて、湯のみを持つときの動きを覚えているから元あった場所に戻すことができるんだよ。」とガイドの方が解説してくれた。暗いところから薄い光が見えてきた。出口が近いようだ。部屋を進むにつれてだんだん明るくなり、入る前は”少し照明が暗く落ち着いた”ところだと思っていたエントランスにたどり着いた。目がしっかり開かないほど眩しく感じた。
≫写真は”少し照明が暗く落ち着いた”エントランス。
写真で見ると人が暗く写る程度の明るさ。それなのに眩しい。
普段意識していないことを自然と意識した体験を通して、いかに視覚に頼った生活なのか考える機会となった。普段街中のカフェに入って最初に受け取る印象は景色だったが、このときは音楽や香りで、視覚意外の感覚の情報に敏感になっていた。使っていない感覚がたくさんあることを知った時間だった。暗くて見えないのに話している人の方を見て話していたり、表情を作っていたり、自然とそうなることを体感した。日常生活でも、話さなくても知らず知らずのうちにコミュニケーションをとっていることが、良くも悪くもあるのかもしれない。話さなくとも少なからず相手にメッセージを送っているのではないかと思った。
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