カフェゼミのコンセプトでもあり、先日の夏合宿のテーマでもある「自作自演」。カフェゼミがはじまって2年が経ち、ゼミ生の人数も増えて、カフェゼミに遊びに来てくれる人も着実に増えてきた。新しい人が出入りすることでカフェゼミ自体に活気がつき、少しずつ「なんだかアヤシイ場」として巷で話題になればいいな、と思う一方、私を含めた肝心のゼミ生は、与えられたプログラムに乗っかった一参加者として振る舞っていたように感じる。「誰のためのカフェゼミ?」という本質を問いつつ、実験的ながらもカフェゼミの原点である自作自演に徹したいと思い、今回の企画を立ち上げた。
【食とコミュニケーション】
ゼミに入った3年前、ゼミに行くといつも美味しいお菓子があった。当初は、ゼミ=授業中に飲み食いしていいのか?なんて思っていたが、気がついたら、食べ物があるのは当然のようになっていた。しかし、だんだんとコンビニで買ったスナック菓子が続くようになり、ついに先生の嫌気が差したのか、この夏、合宿でそれぞれが1チーム5000円の予算で、ワークショップにふさわしいお菓子を持ち寄ることになった。カラフルで珍しくて美味しいお菓子。このとき、私は自信満々に「可愛いは正義☆」だと思って、行きつけのお店のマカロンを25個買ってきた。可愛くてちょっと高級感を味わえるマカロンがあれば、ゼミ生のテンションは上がると思っていたからだ。けれども、この合宿をきっかけに私の中である疑問が生まれた。コミュニケーションの場に、カラフルで、美味しい食べ物があれば、それでいいのだろうか。もちろん、コミュニケーションにおいて「食」が大切であることを、私たちは知っている。ワークショップや初対面の場に食べ物が「ある」、その存在意義を食とコミュニケーションにおける1.0とすると、見た目も味も良くて、値段が高い食べ物は2.0だろう。今回のカフェゼミでは、食とコミュニケーションにおける3.0を考えたいと思い、NPO法人フードデザイナーズネットワークを立ち上げ、食を通じて地域と都市のコミュニケーションデザインを手がける中山晴奈さんによるトークセッションとプチ・ワークショップを行った。
【中山晴奈さんのゲストトーク】
トークセッションは、主に晴奈さんの仕事内容に基づいて進んだ。「フードデザイナー」という仕事は、説明が難しい。まずは、ここ10年くらいで普及してきたケータリングのお仕事から始まった。ケータリングとは、一般的には、綺麗で華やかで、一種のアートのようなお仕事であるが、晴奈さんは、結婚式のケータリング依頼を受けたとき、新郎新婦の職業を考慮し、ピクニックのようなレセプションを手がけた。会場は、公園を指定。公共の場なので、場所は確約されておらず、まずは早朝からシートで場所をとることからスタートしたそうだ。お料理はあえてバラバラのパーツで作り、参加者同士で組み立てる仕掛けを作ったり、芝生をモチーフにしたケーキを作ったり。衝撃だったのは、ケーキカットをシャベルで行っている写真。「食べ物にシャベルを使っちゃいけないって、誰が言ったんですか?」という発言は、一見、既成概念を壊しているようで、実はデザインをするときの本質を表しているような気がして、とても興味深かった。
また、フードディレクションの分野では、ワイントレインのイベントを引き受けたときの話が印象に残った。廃線まで残りわずかとなった車内で、地元産ワインを心ゆくまで堪能できるイベントで、晴奈さんが意識したことは「できるだけ多くの人を巻き込むこと」。地元の日本料理店に食事の提供を頼み、ソムリエは、地元を元気にしたい!と集まった有志の方々に頼んだ。ポイントは、ソムリエを外から地域に呼ぶのは簡単だが、お酒のプロよりも、誰よりも地元を知っていて、地元の話ができるワインの素人に頼んだ方がいいと考えたのだ。地元出身で東京の大学に通う学生、役所職員など、ワインのサーブは初体験だったが、地元を一緒に盛り上げようとお酒の知識を身につけ、結果、大成功にイベントを終えることができたそうだ。これらの話を受けて、どのような場にしたいかで食の捉え方も変わると感じた。
【プチ・ワークショップ】
食とコミュニケーションにおける3.0を考えるには、2.0にない要素を探らなければならない。そして、その要素は各々違っていいはずだ。そこで、画用紙1枚に「特別な見た目ではなく、味も美味しいわけではない。値段が高いわけでもない。それでも記憶に残っている食べ物」を1つ描いてもらうことにした。
ある男性にとって記憶に残っている食べ物は、学校に遅刻しそうになり、母親が渡してくれた串に3つ刺さっているおにぎりだった。よく寝坊することも知っていて、食べ盛りであることもよく知っていたからこその発想であろう。おにぎりは、おにぎりに変わりはないが、とても嬉しかったそうだ。他にも上京したての頃の思い出話だったり、生死を分ける食べ物だったりと、経験に基づいたものが多かった。食とコミュニケーションにおける3.0は、食を1ツールとして、人と一緒に「食べる」を共有する時間なのだろうか、相手の顔が浮かぶくらい、メッセージが伝わる食べ物なのだろうか。どちらにせよ、スペックに惑わされる社会だと、なかなか気づきにくいのかもしれない。
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越境先でイベントやワークショップを行うのも、もちろんいいけれども、せっかく半分ゼミ内(ホーム)、半分ゼミ外(アウェイ)という場があるなら、チャレンジしてみても面白いと思う。自分が企画しているから、手前味噌になるが、今回のカフェゼミでは小物を手作りしたり、ゼミ生が従来のカフェゼミに比べて、2倍近く発言したりしたことを踏まえて、いつもよりも自作自演をしているように感じた。
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