2012年、4月14日。電車の乗り換えに苦戦しながら、スカイツリーを背景に墨東エリアを初めて訪れた。この日は、墨東大学京島校舎にて「墨東カレー考 2」という講座が開催された。
墨東大学とは?<以下、墨東大学HPより引用>
「墨東大学(ぼくとうだいがく)」は、まちや地域コミュニティとの関わり方を〈大学〉というメタファーで理解し、日常生活や社会関係のあり方について考えるための仕組みです。学校教育法上で定められた正規の大学ではありませんが、墨東エリアを、人びとが集いのびやかに語らう〈学びの場〉として設計・演出し、コミュニケーションの誘発を試みるプロジェクトです。
京成曳舟駅を降りて歩くこと10分。「キラキラ橘商店街」に足を踏み入れる。
そこには都心で生活しているとなじみのない、下町の光景が広がっていた。
細い道ながらも、人の行き来は多く、女子高生からお店のおじいちゃんおばあちゃんまで、世代を超えた会話が飛び交っていた。周りをキョロキョロしながら歩くと、早速、目の前に人の輪が。スカイツリーのオープンも間近に迫った突撃インタビューのようなものかと、横目で見て通過しようとしたその瞬間、その輪の中心にいた女子高生らに「こんにちは!」と元気に声をかけられた。この女子高生らは地元密着のアイドルで、地域を盛り上げるために活動をしているとのこと。
~初めての墨東story~
其の壱、目的地に着く前にいきなりアイドルに出会う。
迷いながらも、無事、京島校舎に到着。
到着した時には、カレーの歴史講座は既に終了し、レシピの考案に話は移っていた。壁一面が黒板で、真ん中に調理器具。それを囲むようにみんなの希望がチョークで描かれていく。最終的に、チキンカレーをベースに、野菜、パスタ、パン耳に絡めて食べる方針が決まった。そしてみんなで雨の中、傘を差しながら食材を調達するために、商店街に繰り出す。八百屋さんで値段シールのない野菜を、電卓を使わずに暗算するおばあちゃん。自然と会話も生まれる。そして、八百屋さんを介して知った驚愕の事実。
~初めての墨東story~
其の二、タケノコには♂♀がある。
相変わらず、すれ違うたびに挨拶を欠かさないアイドルちゃんたち。そして、なにやら道行く人々が片手にチューリップを抱えている光景に出会う。地元の高校生が、学校で育てたチューリップだそうだ。私たちも、そのチューリップをすれ違い際にもらった。
買い物を終え、いよいよカレー作り開始。
カレーのルー班、野菜を切る班、パスタを作る班に分かれ、それぞれ作業を進める。私は最初、ルー作りに参加した。カレー粉からスパイスを調合させて作る。
5個の玉ねぎをフードプロセッサーにかけて、鍋にかける。鍋にかけてどれくらいの時間が経っただろうか。なかなか玉ねぎが溶けないので、パスタ班は並行して強力粉とほんの少しの水でパスタの生地を作り始めた。こちらもかなり根気のいる作業となっているようだ。玉ねぎがようやく色づき始めたところで、チキン、調合したカレー粉を入れる。しばらく火にかけて、初めての味見タイム。満場一致で、「・・・甘い。“カレー”では、ない。」との中間報告。明らかに玉ねぎの甘味が勝っているのだ。辛そうなスパイスを入れたり、隠し味にチョコレートを入れたりと、ここから長い奮闘が始まる。そんな中、笑い声とともに部屋の隅っこで何やら座り込んで作業している2人がいた。覗き込んでみると、スポンジケーキの生地と生クリームとイチゴで、デザートを作っていた。「いつの間に!」の展開である。
大きく分けて3つの班がそれぞれ調理を進めているときに、地元の人たちがぞろぞろ教室に入ってきたのも印象的だった。遊びに来たような、好奇心で見学に来たような、なんとも不思議な光景。その大多数は筑波大学の学生で、以前、一緒に「墨東まち見世」プロジェクトに取り組んだことがあるらしい。カレーを作っていることを聞きつけて来てくれたのであろうか。
初めての墨東~story~
其の三、地域の人々と墨大は“縁”よりも“絆”という言葉が似合う関係だと感じる。
とても優しいマイルドな“カレー”に苦戦し、味噌を買い足したりして、味に刺激を求めるカレー班。かなり苦労したわりに1人前くらいの量しかできず、もう1度2倍にして地道に頑張るパスタ班。“まるごとバナ○”をイメージしてイチゴver.を作ってみるが、形が大きく崩れて、作戦変更、イチゴのホールケーキを作り出すデザート班。それぞれの試行錯誤が、同じ空間で共有でき、リアルタイムで分かるので、どこにいても臨場感を味わえた。
ワークショップ開始から3時間半。ようやく、出来上がった。シルバーの、本格的なカレープレートに盛り付ける。盛り付け方も決まってなかったので、その場で意見を出しながら出来たのがこちら。
差し入れのメンチカツ、野菜を素焼きしてカレーに絡めたもの、オリーブオイルで絡めて塩で下味をつけた、シンプルなもちもちパスタ。パンの耳。豪華な出来栄えに、歓声が上がる。そして試食タイム。“カレー”とはかけ離れていたルーが、“カレー”になっていた。そしてメインであり、ベースのルーが、どの素材とも抜群にマッチし、想像以上の美味しさに、満場一致で笑みがこぼれた。
そして、ここで初めて個々に自己紹介のようなものが行われた。世代も職業もバラバラで、普段普通に生活していたら出会わないような人々の集まりだったと、終わりごろに気づく。そんな中で卒なく振舞えたり、会話が弾んだりしたのは、墨大の昔懐かしい雰囲気だったり、街全体のあたたかい雰囲気だったり、“カレー”のチカラのおかげだったと思う。今後、同じ材料を使っても、全く同じ味のカレーはできないだろう。「墨東カレー考 2」は、作る人同士の会話やコミュニケーションから生まれたのだから。そして、今回の一連のワークショップは、「食とコミュニケーション」に興味がある私にとって、本当に学ぶものが多かった。一緒に料理することで、お互いの距離は徐々に縮まってはゆくが、食材にまつわる話から、料理中のこぼれ話、試食タイムで繰り広げられた参加者自身、時代のストーリーで、一気に場が盛り上がったのだった。
地域の方々が気軽に遊びに来て、声をかけてくれる、そんな型破りな“大学”。門もなければ、警備員もいない。(鉢植えやお花がたくさんある、なんともポップな交番は墨大の目の前にあるが・・・笑)タイトルにもあるように、「まち」を見て、「まち」に触れて、「まち」で考える。初めての墨大、墨東に魅せられたのが正直な感想である。そして、5時間立ちっぱなしで、疲れていることも忘れ、夢中になって作ったカレーを、主旨は異なっているけれど、どこか“脱・サンドイッチ”に重ねている自分がいた。そして次はどんなワークショップをやりたいか、誰と、どこで、何を料理しようか、そんなイメージを持つだけで、とてもワクワクした。
美味しいものを一人で食べ歩くのはもちろん大好きだけど、それ以上に「つくる」ことは一石三鳥であった。「つくる」喜び、人と「関わる」喜び、「食べる」喜び。
「食とコミュニケーション」の醍醐味を全身で感じたワークショップだった。
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